港の樹の下でクリームサンドを齧りながら夕陽をみていた。したれば、遠くで釣りをしていた男が、みるみるこちらへ近付いてきて、伝えるべきことがあるから伝えるんだという義務感を伴った積極性をもって話しかけてきた。
「あすこにブイが浮かんでいるでしょう。ほら、ブイの沖側でいま、飛び跳ねたの、イルカですよ。スナメリっていうんです。知りませんか。口先が丸いイルカです。この湾でイルカを見れたら幸福になるっていわれてるんです」
(では、わたしはいま、とてもラッキーなんですね。教えてくださってありがとう)
男は言うだけ言うと、己の職務はまっとうしたといわんばかりのあっけなさで釣りに戻った。